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音の会 稚魚の会 レポート

先日の関東直撃の台風の影響で多くの被害が発生しています事、ニュースを見るたびに心苦しく思っております。被害に遭われた方へ心よりお見舞い申し上げます。残暑がまだ続いておりますので、被害地域の方々の1日も早い復旧を望んでおります。

 

前回ご案内しておりましたが、8月に行われました稚魚の会、音の会のレポートを当会会員藤間涼花さんより頂きました。

ぜひご一読頂けたらと思います。

 

宗家藤間会会員の藤間涼花と申します。

毎年八月に開催されます、国立劇場(日本芸術文化振興会)主催の「音の会」「稚魚の会・歌舞伎会合同公演(以下、合同公演)」におきまして、勘祖先生が『妹背山』(音の会)、『三社祭』『関三奴』(合同公演)の振付、指導を御担当なさいました。

国立劇場では伝統芸能伝承者の養成事業が取り組まれており、歌舞伎におきましては歌舞伎俳優および歌舞伎音楽の養成研修が長年にわたり行われております。現在ではその多くの修了者の方々が歌舞伎界で活躍されています。また、その修了者を含めた既成者の技芸の修練を図るために行われるのが、この「音の会」(歌舞伎音楽既成者研修発表会)と「稚魚の会」(歌舞伎俳優既成者研修発表会)です。

私は勘祖先生、宗家の下で2001年から12年間内弟子修業をさせて頂きました。その時期に国立劇場の俳優研修生のお稽古に宗家のお付きとして同行させて頂き、内弟子を卒業しました現在では講師として俳優研修生の日常の稽古を宗家より任されております。

その経緯があり、今回の公演に指導補佐として携わらせて頂きましたので、僭越ながらお稽古から本番までの様子をご報告させて頂きます。

お稽古は演目によって早いものでは5月後半から始まりました。出演者の皆様はほぼ毎月歌舞伎公演でご自身の舞台出演や御師匠様の御用事をなさっています。公演の合間を縫ってお稽古にいらしたり、終演後の夜9時過ぎからお稽古することもありました。皆さん、お疲れもあると思いましたが、嬉しそうにお稽古に励まれていました。

この研修発表会は日頃歌舞伎公演で脇を固める役者さん達が主立った役を演じることが出来る機会ですので、皆さんとても一生懸命にお稽古に励まれます。それゆえ勘祖先生は他の公演のお稽古などでもお忙しくされる中、出来る限りお稽古を入れてあげようとなさいます。

「夏の勉強会のお稽古はとっても大変で教える方が疲れるのだけど、皆一生懸命で、少しずつ目に見えるようによくなっていくのがわかるからやりがいがある。大変だけど、私、このお稽古好きなのよね。」と勘祖先生が以前から度々仰っていたのを思い出します。

 出演者の皆様は別々の公演に出演されていることもあり、お稽古に専念できるようになるのは7月の歌舞伎公演が千穐楽を迎えてからで、それからは毎日のようにお稽古が入りました。

 勘祖先生は体の使い方、間の取り方はもちろん、衣裳や小道具の細かな使い方までお教えになり、それぞれの癖を指摘され、どうしたらそれが直るか分かりやすくお教えになります。

夫々の踊りを見る中で性格まで読み取り、個性を生かし教え導く過程を長年御傍で見させて頂いている事が私の宝物となっております。その輝きを私の中で曇らせることなく大切にしていきたいと思うばかりです。

音の会は本番二日前から義太夫さん、鳴物さんの演奏と合わせてのお稽古となり、前日の舞台稽古では拵えもしてより本番に近い形でお稽古致します。

舞台稽古は高砂会の舞台稽古と、歌舞伎座公演の初日と重なってしまい、勘祖先生がいらっしゃらない中、私が一人で立ち会うことになり前日から緊張致しました。たまにあるそのような機会の時は自身の中にある宝物を頼りに、役者さんが演じやすい環境が整えられているかを見守ります。

『妹背山』(別名『道行恋苧環』)は、「妹背山女庭訓」という長いお芝居の中の四段目前半にある道行舞踊です。この場面では求女という男性を巡ってお三輪と橘姫という対照的な女性の恋争いが描かれています。

勘祖先生が出演者の皆さんに、「こういう道行舞踊は前後の物語がお客様にみえてこなくてはならないのよ。」と仰ったのが印象的でした。

中村京妙さんの演じるお三輪が幕切れで必死に二人を追いかける様子に、次の場面でのお三輪の悲劇が思い起こされ、お稽古でも本番の舞台でも胸に迫るものがありました。

求女役の京純さんも、橘姫役の京由さんも懸命に大先輩の京妙さんについていき、一門ならではのチームワークの良さを感じました。

続く稚魚の会での『三社祭』は軽快なテンポで踊る跳躍感あふれる舞踊です。浅草の観音様を網ですくい上げたと言われる漁師の兄弟に、人の善悪の行動を引き起こす善玉と悪玉が取り付いた様子を、善悪のお面を付けて踊ります。お客様にもお楽しみ頂ける人気曲ですが、立役の役者さんにとってもいつか挑戦したいと思う人気曲です。

演じるやゑ亮さん、音蔵さんはとても意欲的にお稽古に励んでいて、音蔵さんが地方で一緒にお稽古が出来ない月に自習をして汗だくのやゑ亮さんに国立劇場の稽古場でばったり会うこともありました。

また同じく『関三奴』も身体を目いっぱい使って踊る、軽快な踊りです。大津絵に描かれた大名行列の先頭に立って毛槍を豪快に振る槍持奴を舞踊に仕立てた作品で、長い毛槍を使って豪快に華やかに踊る他、演奏に合わせ足を踏み鳴らす足拍子など見どころの沢山ある演目です。

演じる音幸さんと貴緑さんは国立研修生の舞踊の授業でもこの曲をお稽古したことがあり、その時も嬉しそうに踊っていた彼等が実際に舞台で披露する機会を得たことは嬉しく、その後経験を積んで研修生の時にはなかった表情をする事にハッとさせられました。

稽古場でのお稽古を終え、翌日から国立劇場でのお稽古になる時、勘祖先生が皆さんに仰いました。

「色んな方がお稽古を見に来たり、生演奏になったりする事で緊張したり、もっと自分をよく見せたいと思う事があるかもしれないけど、いまお稽古していることがあなた方の精一杯だからそれ以上にやろうと思わないでいいの。とにかく踊ることを楽しんで。それが一番大事よ。」

 私も内弟子の頃、舞台の本番前になると勘祖先生によく言われた言葉があります。「丁寧に踊りなさい。自分を上手にみせたいなんて思っちゃダメ。」「舞台でよくみえるのは上手か下手かではないのよ。」

 今の実力以上に背伸びをしてもよく見えない。今ありのままの自身の精一杯で踊ることが大切であると教えて下さいました。あの時実感出来なかったことも今になってわかる事もありますし、まだまだこれから更に深い意味を理解するかもしれません。

 私はいつまでもその教えを守り、また教える立場の時にはそれを多くの方に伝えていきたいと思います。

 国立劇場で生演奏でのお稽古が始まると、出演者4人のお師匠である役者さん方もお稽古を見にいらして下さいます。実際に歌舞伎公演で演じられた視点から、様々なアドバイスをして下さっていて、私も傍らで聞かせて頂き大変勉強になりました。

 本番前日は舞台稽古で、その時初めて本番用の衣裳かつらを付けて踊ります。舞台上の居所(踊る位置)などを確認しながら、扮装にも慣れなければならず、課題が沢山出てきます。

勘祖先生は出演者の皆さんが課題をクリアして、楽しんで踊りに打ち込めるように、演奏の方や大道具や小道具、照明などのスタッフの方々と打ち合わせなさいます。

 いよいよ迎えた本番、客席にお客様が入ると劇場の雰囲気が全く変わります。出演者の皆さんは緊張しながらもお客様の声援を受け、生き生きと精一杯踊りきっていました。

幕が下りた後に勘祖先生と楽屋を訪ねますと、出演者の皆さんが色々反省する箇所を言いながらも達成感で高揚した表情をされていました。これまでの勘祖先生の御指導が報われた思いが致しました。

話は戻りますが音の会本番の後、そのまま国立劇場で合同公演のお稽古をして、勘祖先生と松濤のお稽古場に戻った日がありました。お稽古場には沢山の人、人、人!宗家がまだまだこの後に続く他の自主公演のお稽古をなさっていて、沢山の人がお稽古の順番を待っていらしたのでした。

その日の宗家は、朝松濤の稽古場でお弟子さん方のお稽古して、市川會の舞台出演をした後にまたお稽古場に戻って…という超多忙なスケジュールをこなしていらっしゃいました。

そんな中、雄大坊ちゃんがご自身のお稽古を終えてからも他のお稽古を熱心に見て、気に入った場面を二階に上がってきて再現してくれます。弟の智基坊ちゃんもお稽古用の音を流して身体をスイングするのが最近のお気に入りのようです。無邪気に踊りを楽しむお二人の姿に緊張したお稽古場がホッと癒されます。

その日の光景のように、御宗家の親子三代の日常のお姿を拝見していると、「脈々と受け継がれていく」という事を目の当たりにしたようで、いつもそっと感動しています。

勘祖先生、宗家の下で様々な経験をさせて頂いたご恩をお返し出来るよう、私も先へ先へと続けていけるよう精進して参りたいと思います。ありがとうございました。

次回は、10日に行われました至高の華についてご報告致します。

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